あるところに…
ひとにまだ知られていない種族の生き物が、街をさけ、山奥にひっそりと住んでいました。
「さとるの化け物」の亜種で、人の考えていることをそっくり言葉にはできませんでしたが、遠くで起きている事柄や、遠くにいる人に念を集中すると、その状況をとらえることができるのでした。
そのようにして、 人間界でたくさんの見えるものをみて、聞こえるものを聞いていました。
そのサトルの亜種はそうしていると、今はまだないけれど少し先の時代になら、ふつうに八百屋の店先に売られているような食べ物を、いつのまにか産んでしまうのでした。
でもそれは、そのままでは、今の人間の口には合いませんでした。
でもそれは、その生き物のまわりで木の実のように落ちたり、野のハーブのように生えたりするので、見つけて採って、栄養にする人間が、ごくたまにいるのでした。
すると、それを食べた人間は、 ひとにまだ知られていない種族の生き物 に変化しはしませんが、人間に受け入れられる新しい実、新しい糧を産むことができるようになるのでした。
そのようにして生まれた糧は無限に増やすことができ、また人間の口にも合ったので、たくさんの人間が、その増やされた新しい糧を食べて、幸福になることができました。
新しい糧を産んだ人間も、街で指折りの豊かな者になりました。
けれど、人に知られていない生き物のほうは、それを採っていった人間にも、感謝されることはありませんでした。
人間は、その食べ物を野の草と同じで、いくら採っていってもかまわないと思ったからでした。
あまりにも些細な野の草で、自分と同じように生きている人間から産まれたとは、思わなかったのです。
ですからその知られていない生き物は、ひきかえに何の糧も得られませんでした。
『オツベルと象』の象のように、たださびしく笑って、自分の生んだ糧から生まれた糧を見ながら、ひっそりと生きていくだけでした。
※この物語は管理人の創作によるフィクションです。