出典:http://www.tbs.co.jp/muryou-douga/gibomusu_blues/010/index.html?mode=auto
※この記事にはTBS火曜ドラマ『義母と娘のブルース』に関するネタバレが含まれます。
残すところあと1回となりましたが、TBS火曜ドラマ『義母と娘のブルース』についてのレビューです。
9月11日放送の第9話、残り2分となったその瞬間、日本中でこのドラマを見ているひとたちが、「頼む、亜希子さん、幸せになってくれ!」と心の中で祈ったにちがいないと思うのですが、ご覧になった方、いかがでせうか。
画面右下に「つづく」と出たときは、「え~~っ!? まだ最終回があるの!?」とうれしい2度びっくりでした。今回(第9回)が最終回だと思っていたんですね(←アホです)。
このドラマの開始前に、何度も予告編で流れる、キャリアウーマン風の女性が小さい女の子に向かって、90度の角度でお辞儀しながらうやうやしく名刺を差し出す、というシーンが印象的で、目が釘付けとなりましたが、女性の自己紹介の言葉が、
「わたくし、この世の者でございます。」
だったので、セリフのおもしろいドラマだなあ、と思っていたのですが、じつは名刺を出すときのちゃんとふつうの言い方「わたくし、このような者でございます。」の聞き違いだったことがわかり、そのとき書かないでよかった…と思いましたが、そんなおバカな聞き間違いがなくても、このドラマは十二分におもしろいのでした。
みゆきという名の小学3年生の娘を持つサラリーマンの宮本良一さんが、子連れで再婚したのがバリバリのキャリアウーマン、大手金属会社営業部のなんと部長という要職にある、岩木亜希子さんでした。ところが亜希子さんはあっさり退職し、宮本家の専業主婦になります。
惜しくも初回から見ていず、たまたま、継子のみゆきの学校の専制的なPTA会長とその配下のお母さんたちに、亜希子さんがひとり戦いを挑む、第3回を見たのでした。
有能なもと営業部部長とはいえ、全PTAを敵に回すというあまりに無謀と思えるその戦いを、彼女が諦めなかったその理由は、❝強い者に迎合し、黒も白と言いぬけて従ってしまえば戦わずにうまく生きていける、という姿勢を娘のみゆきが見たなら、いずれ育ったとき、親と同じように長いものに巻かれてしまえばいいという生き方をするようになってしまうから、今決して引くわけにはいかないのだ❞、と言い放つ場面には、見る人みんな、惚れましたね~。
イヤガラセの原因は、もとキャリアウーマンだったPTA会長さんの、慣例にまっこうから異を唱える亜希子さんへの複雑な感情があったわけでしたが、こういったばあいの変にドロッとした展開にならず、完全に冷静に論理的に対処していく亜希子さんの言動が気持ちよすぎました。
❝そうなんだ、ほんとうは長いものに巻かれず、何の効果もないのに慣例だからとそれに従うということをせず、こんなふうに対処していきたかったのだ❞という、生活の中のあんな、こんなの願望を、どんどん実現していってしまう亜希子さんに、見ているひとは胸のすく思いがしたと思います。
ドラマを背負う亜希子さんの最大の特徴は、家族や知り合い相手でも職場とまったく同じ「ですます」口調で話すこと、そしてそれが、ピシピシパキパキとした、論理的に考えぬかれた言葉であることなんですね。
それなのに、冷たいともつきはなされているとも一切感じないのは、かかわる人や状況をうまくいかせるための、絶対的な誠実が彼女に言わせている言葉だからなんですね。
四角四面なのに、だからその言葉を聞くほどに安心するというか、信頼が深まるというか、実生活の中なら、いわゆる男性からは思いっきり苦手とされるタイプの、可愛く見せようとも好かれようとも思っていない女性なんですが、見る人の中で、どんどん愛されヒロインへと変わっていくのです。その意外性が、ほんとうにすてきな物語なんですね。
現実的にはむずかしい、おとぎばなしともいえる設定と思いますが、書類上のみの実質的でない結婚だからこそ、ほんとうに信頼しあえる、尊重しあえる関係とはどういうものかということを本質的に抽出して見せてくれたドラマでした。
9歳の娘を、自分の死後、信頼できる有能な女性にたくすために申し込んだ契約結婚で、1日も夫婦としての生活はなかったのに、お葬式でこんなに泣いてもらえるとは、おそらくこの契約を申し込んだダンナさんの良一さんは考えもしなかったにちがいありません。
良一さん亡きあと、亜希子さん本人も初めて気づくのです。シングルのまま子供の養育者というものになれるという条件だけでなく、良一さんにも初めから、直感的に絶大な信頼を感じていたということを。
なさぬ仲の娘を9年間、書類上のダンナさんを思いながら大切に大切に育て上げた、見上げたもとキャリアウーマンの亜希子さんが、幸せになってくれるかどうか、来週が心から待たれます。
興味とお時間が許せば、ぜひ全話とおしてご覧いただきたいドラマです。
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