『銀河鉄道999』の最終回に期待してます

銀河鉄道999とは

『銀河鉄道999』というのは、多くの人が知る、あの国民的アニメというかマンガです。

宇宙船なのに、なぜか昔懐かしい「蒸気機関車」の形を取っています。さすがに先頭の機関部の中はハイテクですが、客車は木枠にビロード張りの座席が向かいあう、あの昔ながらの内部なのです。

作者の松本零士氏は、若き日に故郷から東京へ出るときに乗った夜汽車をモチーフにされたということです。だから内部はそれと同じ、昔のままになっているのだろうと思います。

駅を出発したあとも、いきなり真上に飛び上がったりなどという風情のないことはせず、平らな線路の上を煙をはきながらしばらく走ったあと、レール部分は、空へ向かって突き出された高架になります。そしてあるところで、ぱちっと裁ったように途切れるのです。

999が宇宙船の本領を発揮するのは、そこからです、おもむろにふわりと夜空へ舞い上がると、ゆるやかなS字を描いて星の海にまぎれていくのです。その姿は、まるで、ひそかに飛び立った龍のようです。

だれもが郷愁をさそわれるSLが交通手段ということもあり、この漫画を読む人は、年齢性別をとわず、だれもが目を輝かせた少年あるいは青年になって、謎めいた美しい人と未来へ向かって旅をする、そういう気持ちになれるのではないかと思います。

この物語がたくさんの人にこれほど長く愛されている理由は、そこではないかと思います。

不安と希望のいりまじる気持ちで、おとずれる惑星それぞれの価値観やそれぞれの人のありようを見聞きしながら、未知へと向かう旅を、読む人もともにできること、それが最大の魅力だと思います。

999は、だから私の中では、今も機械帝国には着いていず、ずっと惑星をめぐる旅をつづけているのです。

時折続編の描かれるこの旅の、いつかはくる本当の終着点は、ですから、どうか優しい光の注ぐ場所であってほしいと願ってやまないのです。

ちょっと夜汽車のお話

少し脱線しますが、私が子どものとき、父は転勤のために単身赴任していて、帰省のときは上野駅から信越本線の特急とか急行に乗って帰ってきていました。

北陸新幹線のまだ通っていない時代なので、それらのたてる、特有の「ガタゴト…」というひびきが、夜になると何㎞もはなれている家まで、毎日聞こえてくるのでした。

父が帰るときの電車はいつも決まっていて、駅に着く時刻が近づくと、手前にカーブがあるのか、きまって「ピー…」というもの哀しい警笛の音も、宵闇のなか、遠くひびくのです。

それからしばらくすると、ほんとうに父親が玄関に現れるので、私にとってその音は、父が帰ってくる、という合図の音でした。また父が帰京したあとは、その音をまた数え切れないほど聞くうちには、また家に帰ってきてくれるのだと、教えてくれている音でもありました。

新幹線が長野まで来ると、特急や急行は走らなくなったので、きが両方ともきこえなくなってしまったことが、さびしい気持ちでしたが、金沢まで行く北陸新幹線が開通すると、意外にも、警笛こそ鳴りませんが、あの「ガタゴト…」という懐かしい響きが、またきこえてくるようになったのです。

じっさいはそんなかわいい音ではなく、「ガーッ!」という、けっこうなインパクトの音だったのですが、たしかに哀愁のただよう、いぜんと同じニュアンスにきこえるのでした。

近所のコンビニに夜行くとき、その北陸新幹線が高架をつっぱしっていくのをよく目にできるのですが、初めてその姿を見たときには、びっくりしました。

「これって、『銀河鉄道999』じゃない!??」

まさにあの国民的アニメの蒸気機関車が、夜の地上部のレールを走るときの姿、そのものだったのです。

高架のあるあたりは何もないので、地上からふわりと浮いた地点を、こうこうと窓を光りかがやかせながら、闇の中をつきすすむ黒い列車、それは遠目には、地上部のレールを走る999とうりふたつに見えたのです。

なので、轟音だけを残して見えなくなったあとは、あの列車は、今ごろゆらりと星の海に舞い上がって行っているのだ、という想像を楽しむことができるようになったのです。

そんなわけで

子どものときめったに会えない人だった父親は、いまもう、あちらの岸でなければ会えない人になってしまいましたが、毎日走って行く新幹線の窓の中には、そんなわけで、なぜだかその人の姿も、毎回いてくれる気がするようになったのです。

また、同じ列車のちがう客車には、少年の姿の自分も乗っていて、冒険の旅をだれかと共にしているという妄想を、楽しく抱くこともできるようになったのです。

だからそのすごいインパクトの音がひびくたび、私は、うるさいとは感じず、むしろ元気が出るのでした。

『銀河鉄道999』の原作マンガは、小学館「銀河鉄道999 コミック 全21巻完結セット (ビッグコミックスゴールド) 」に、既作品すべてがおさめられているようです。