ジョシュ・グローバン『You raise me up(ユー・レイズ・ミー・アップ)』

ひとり孤独に海辺に立っている少年と、海。

「見えない肩」が傍らにいてくれる

今日ご紹介するのは、ジョシュ・グローバンの『You raise me up(ユー・レイズ・ミー・アップ)』です。ジョシュ・グローバンは、アメリカ出身の男性シンガーです。

無名の新人を多く世に出してきた、カナダの名音楽プロデューサー、デビット・フォスターに発掘され、その歌唱力で一気にスターの座にかけあがったひとです。日本でも有名なケルティック・ウーマンとおなじく、この人も『You raise me up』はカバー曲です。

もともと『You raise me up』は、ノルウェー&アイルランドの2人組ユニット「シークレット・ガーデン」の歌でしたが、発表されるやいなや幸か不幸か数え切れないシンガーにカバーされるという運命を歩み、世界的に有名な歌となりました。

ジョシュ・グローバンは、温かい歌声でしられる人ですが、『You raise me up』もその例にもれず、最初の1音からホットです。❝あなたの肩にささえられ、私は強くなる❞というフレーズのなかの、「Your  shoulders(ユア  ショルダーズ:あなたの肩)」ということば、その温かい声に歌われる、この1つの言葉に、私はいつも「はっ」とします。

それから、「ほっ」とするのです。なぜかというと。

この歌の「 You(ユー:あなた)」とはだれか?について、ネット上でいろいろに語られていますが、❝それぞれの解釈でいいじゃないか?❞というもっともなオチは、ここではおいときましてですね。私は、この「ユー」は「God(神) 」にほかならないんじゃないか、と思うのですね。

❝自分に肩を貸してくれる人なんかだれもいない…❞  とは、人生でだれしも起こりうる感情だと思うんですね。そのとき頼れる実在の人間が本当にだれもいなかったら、❝もう、いま自分には神様だけがいる…❞ と思うようになるんじゃないかと思うんです。キリスト教圏の人でなくとも。

そんなとき、❝何か温かい感じが?横にほんわりとあるぞ?❞と、感じさせてくれるものがあったら…ジョシュ・グローバンの『You raise me up』って、まさにそれを感じさせてくれる歌だと思うんですね。思いこませるのでなく、むりやりでなく、こころの中に「じわっ」と、そういう温かい感情を生まれさせてくれるボイスとメロディだと思うんですね。

歌っているときの視線は、つねに少し上方を見ています。もちろん客席に向けているものですが、また、高みにいる存在に向けて自分の歌を捧げているようにも見えるんですね。

❝Your  shoulders(ユア  ショルダーズ) ❞ の真摯な響きには、もしかしたら、この人がその視線の先に見ているかもしれない、「人間の傍らにいてくれる高い存在」、その方への信頼、そしてその存在を仰ぎ見て、人らしくあろうとする者の誇りが感じられるように思うのです。

もちろん、自分を見いだしてくれたデビット・フォスターへの、感謝の思いもあると思います。

だからこの歌を聴くときには、人のすぐかたわらにいてくれるかもしれない、「見えない肩」の気配を感じとりたいと思うのです。

心をしずかにしずかにして聴いたとき、そっとあらわれる、見えないけれども、たしかにある「同伴者」=「神の肩」の気配、それを、感じとりたいと思うのです。

Josh Grobanジョシュ・グローバン)You Raise Me Up